表面熱処理(浸炭/窒化)

母材の靱性を確保しながら表面のみを高硬度化し、耐摩耗性と耐疲労強度を両立させる方法。 自動車部品では ガス雰囲気中で熱処理する方法と高温の塩欲槽で処理する方法が使用される。

【適用】エンジン(コンロッド、クランクシャフト)、変速機(ギア、シャフト、CVTプーリーシャフト)、デファレンシャル(ファイナルギヤ、デフサイドギヤ)、ドライブシャフト、等速ジョイントなどに実施されている。

サイズ

10㎜~1000㎜

構成

ガス浸炭焼入、ガス浸炭窒化焼入、ガス窒化、プラズマ窒化、ガス軟窒化、塩浴軟窒化

ガス浸炭 ガス浸炭窒化 ガス窒化 プラズマ窒化 ガス軟窒化 塩浴軟窒化
ワーク 肌焼き鋼 SCM415等、
低炭素合金鋼 SCM,SCr ,SNCM
低炭素鋼SPCC SS400 SUM22 S15C SCM420 ダイス鋼 SKD61 合金鋼 SCM、SNCM SUS300番 SUS600番 SUS以外の鋼材 SUS以外の鋼材、鋳物(FC、FCD) すべての鋼材、SUSアルミ含み
使用ガス 浸炭性ガスCO₂ 浸炭性ガスCO₂+ 窒素N₂ 0.5~1% アンモニアNH₃ 窒素N₂添加水素ガスH₂ アンモニアNH₃浸炭性CO₂1:1
焼入温度 (℃) 900~940 800~880 浸炭よりやや浅い 500~550 450~530 530~600 570
時間(H) 4~20 1~5 50~100 10 2~5 0.5~3
全硬化層深さ( μm) 200~1000 200~800 200~600 10 5~20 5~30
表面硬度(Hv) 800 1000 1000~1200 600 400~600 500
長所 深さ SPCC可 低ひずみ 低公害 マスキング可 低公害 防錆兼用
短所 ひずみ ひずみ 長時間 処理 コスト シアン公害

◆ガス浸炭焼入れ

母材の靱性を確保しながら表面のみを高硬度化し、耐摩耗性と耐疲労強度を両立させる方法。表層全体の処理となり部分的な焼入れはできない。全硬化層深さは処理時間を長くすれば3㎜近く入れることができる。熱処理方法は浸炭炉内の浸炭性ガスを充満させ、鉄の変態点温度以上の900~940℃程度まで焼き入れ加熱し、浸炭深さに応じて、4時間~20時間保持、その後焼入れ冷却と焼戻し処理をする。浸炭性ガスは鉄鋼材料に接触すると分解し活性炭素を生じ浸炭する。

浸炭後の焼入冷却には焼入油を使用しており、以下の3タイプの焼入油を材質や形状によって使い分ける。

  • コールド油(冷却性が高く肉厚品、炭素鋼や低合金鋼)
  • ホット油(焼入歪みを抑制)
  • セミホット油(幅広く適用される)

サイズ:10㎜~500㎜

材質:

肌焼き鋼(SCM415等)、低炭素合金鋼(SCM,SCr,SNCM)

工法:

焼き入れ→焼き戻し

◆ガス浸炭窒化

窒化により焼入性が向上するため、安価な材料が適用できる。ガス浸炭では硬化しないSPCCなどの低炭素鋼の処理が可能になる。ガス浸炭と同様に母材の靱性を確保しながら表面のみを高硬度化し、耐摩耗性と耐疲労強度を両立させる。表層全体の処理となり部分的な焼き入れはできない。

熱処理方法は、ガス浸炭焼入と同じ設備を使用し、通常のガス浸炭よりもやや低い800~880℃の温度で浸炭より短時間で鋼の表面に炭素と窒素を同時浸入させることができる。ガスは通常のガス浸炭雰囲気にアンモニアガスNH₃を少量添加し、NH₃から分解したN成分により、窒化と浸炭が同時に行われる。

サイズ:

10㎜~500㎜

材質:

低炭素鋼(S20C等、SPCC材)、快削鋼(SUM材)

工法:

焼き入れ→焼き戻し

◆ガス窒化

熱処理方法は変態点温度(700℃)より低い臨界区域(550℃)以下で処理するため、変形や歪の心配がない。長時間をかけて処理することで、表面硬度はHv1000~1200の超硬度となり、金型の熱処理などで使用される。ワークは窒素と親和力の強いCr、Moは不可欠成分となり材料は限定される。SACM645は窒化専用鋼、そのほか型鋼SKDやグロムモリブデン鋼SCMなどが窒化処理できる。熱処理は、500~550℃に加熱したアンモニア分解ガス中で50~100時間かかる。

◆プラズマ窒化(イオン窒化)

ガス窒化の処理時間の長い欠点を補う目的で開発された無公害加工法。変態点温度(700℃)より低い臨界区域(550℃)以下で処理するため、変形や歪の心配がない。530℃×10時間とガス窒化より短い加工時間で高硬度で耐摩耗性に優れた特性が得られる。ワークは、ステンレス鋼SUS以外のほとんどの鋼材が処理できる。また他の窒化法では困難なマスキングが可能で部分的な窒化処理が可能になる特徴がある。

熱処理方法は真空に近い状態まで減圧した炉内で、ワークを陰極、炉壁を陽極とし、350~1000ボルトの電圧をかけると、ワークにプラズマが発生する。このとき、少量のN2とH2を混ぜた混合ガスを炉内に送り込むと、イオン分解し、分解されたNイオンによってワークが窒化する。

◆ガス軟窒化

ガス浸炭と同様に母材の靱性を確保しながら表面のみを高硬度化し、耐摩耗性と耐疲労強度を両立させる方法。表層全体の処理となり部分的な焼き入れはできない。熱処理方法は変態点温度(700℃)より低い臨界区域(550℃)以下で処理するため、変形や歪の心配がない。2~5時間の短時間処理だが、表面硬度はHv400~600の高硬度となり、自動車部品で使用される。ワークはステンレスSUS鋼SUS以外のすべての鋼材が窒化処理できる。ガスはアンモニアガスNH₃と浸炭性ガスCO₂を1:1の割合で混合して用いる。530~600℃x2~5時間加熱し、NH₃から分解したN成分で窒化を、CO₂から分解したC成分で浸炭を行い、窒化層被膜を生成する。

◆塩浴軟窒化

ガス窒化の表面硬度HV1000に対して塩浴軟窒化は表面硬度HV500程度のため、軟窒化と呼ばれる。ワーク材料はすべての鋼材、アルミが処理できる。ガス窒化で処理できない高Ni合金も対応できる。熱処理方法は、ガスを使用せず、比較的低温な580℃で短時間(0.5~3時間)の シアン化ナトリウムの塩浴により最表面に化合物層、その下に拡散層が形成される。低摩擦係数と耐摩耗性に優れた特性が得られ、処理温度が低いため変形や歪の心配がないことも長所。

サイズ:

10㎜~500㎜

材質:

すべての鋼材(SUS、高Ni合金、アルミ含む)

工法:

580℃で短時間(0.5~3時間)の塩浴剤浸漬

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